キッチンカーPL保険の選び方と費用相場【2025年版】
キッチンカーの食中毒事故による平均賠償額
最高賠償額は1,200万円のケースも
※日本フードサービス協会2024年調査
キッチンカー事業で最も恐ろしいリスクの一つが食中毒事故です。たった一度の事故で、賠償金だけでなく、信用失墜による廃業に追い込まれるケースも少なくありません。
本記事では、AFP(ファイナンシャルプランナー)×消防設備士×情報セキュリティマネジメント×運行管理者の4資格を持つ筆者が、PL保険(生産物賠償責任保険)の選び方と適正な補償内容を徹底解説します。
第1章:PL保険とは?キッチンカーに必要な理由
PL保険(Product Liability Insurance:生産物賠償責任保険)は、提供した飲食物が原因で、お客様に身体的・財産的損害を与えた場合の賠償責任をカバーする保険です。
キッチンカーで想定される主なリスク
🚨 リスク1:食中毒事故
- 発生頻度:
- 年間でキッチンカー100台あたり約3件
- 主な原因:
- ・温度管理不備(夏場の常温放置)
・手洗い不足による二次汚染
・食材の期限管理ミス - 平均被害規模:
- 被害者15〜30名、治療費・慰謝料で総額200〜500万円
🚨 リスク2:異物混入事故
- 発生頻度:
- 年間でキッチンカー100台あたり約8件
- 主な原因:
- ・調理器具の破片混入
・包装材の一部混入
・虫などの混入 - 平均被害規模:
- 歯の損傷で30〜100万円、精神的苦痛への慰謝料10〜50万円
🚨 リスク3:アレルギー事故
- 発生頻度:
- 年間でキッチンカー100台あたり約2件
- 主な原因:
- ・アレルゲン表示の誤り
・調理器具のコンタミネーション
・スタッフの知識不足 - 平均被害規模:
- 軽症10〜50万円、重症(アナフィラキシー)で300〜1,000万円
第2章:補償内容と保険金額の目安
PL保険の補償内容は保険会社により異なりますが、基本的な構成は共通しています。
基本補償と推奨保険金額
補償項目 | 補償内容 | 最低推奨額 | 標準推奨額 | 充実プラン |
---|---|---|---|---|
対人賠償 | 身体への損害 (治療費・慰謝料等) |
1名1億円 1事故3億円 |
1名2億円 1事故5億円 |
1名3億円 1事故10億円 |
対物賠償 | 財物への損害 (衣服汚損等) |
1事故500万円 | 1事故1,000万円 | 1事故2,000万円 |
生産物自体 | 回収費用等 | 100万円 | 300万円 | 500万円 |
使用不能損害 | 営業損失補償 | なし | 100万円 | 300万円 |
初期対応費用 | 事故調査・見舞金 | 50万円 | 100万円 | 200万円 |
特約で追加すべき補償
🛡️ おすすめ特約オプション
被害者への見舞金を迅速に支払える(1名あたり3〜5万円)。初期対応で信頼回復に効果的。
顧客情報(アレルギー情報等)の漏洩による賠償をカバー。情報セキュリティ対策として重要。
販売場所での事故(看板の転倒等)もカバー。PL保険とセットで加入推奨。
イベント会場等の設備を破損した場合の賠償。出店機会が多い事業者は必須。
第3章:保険料の相場と計算方法
PL保険の保険料は、売上高・業種・補償内容により大きく変動します。
保険料の目安(年間)
- 売上1,000万円以下
- 基本補償のみ
- 免責金額10万円
- 小規模事業者向け
- 売上3,000万円以下
- 基本補償+主要特約
- 免責金額5万円
- 一般的な事業者向け
- 売上5,000万円以上
- フル補償+全特約
- 免責金額なし
- 大規模・複数台向け
📊 保険料簡易計算ツール
推定年間保険料
※実際の保険料は保険会社の査定により異なります
第4章:主要保険会社の比較一覧
キッチンカー向けPL保険を扱う主要保険会社を比較しました(2025年1月現在)。
保険会社 | 商品名 | 特徴 | 保険料目安 | 評価 |
---|---|---|---|---|
東京海上日動 | ビジネスキーパー | ・PL+施設賠償セット ・24時間事故受付 ・キッチンカー実績多数 |
8〜20万円 | ★★★★★ |
損保ジャパン | ビジネスマスター ・プラス |
・カスタマイズ性高い ・食品事業者専門部署 ・事故対応満足度高い |
7〜18万円 | ★★★★★ |
三井住友海上 | ビジネスプロテクター | ・総合補償パッケージ ・リスク診断サービス ・保険料分割払い可 |
9〜22万円 | ★★★★☆ |
AIG損保 | スマートプロテクト | ・少額短期保険あり ・イベント単位加入可 ・外資系の強み |
6〜15万円 | ★★★★☆ |
共栄火災 | 飲食店総合保険 | ・中小企業向け ・保険料が比較的安い ・代理店網が充実 |
5〜12万円 | ★★★☆☆ |
第5章:最適な保険の選び方(チェックリスト付)
PL保険を選ぶ際は、保険料だけでなく、補償内容と付帯サービスを総合的に判断することが重要です。
✅ PL保険選びの10のチェックポイント
最低でも対人1億円/1事故3億円は必要。アレルギー事故リスクが高い業態は増額推奨。
免責0円は保険料が高額に。5〜10万円の免責で保険料を20〜30%削減可能。
販売行為に関する事故もカバー。単独加入より15〜20%お得。
24時間365日の事故受付、専門スタッフの現場派遣サービスの有無を確認。
食品事故の対応経験が豊富な保険会社を選択。口コミ・評判も重要。
リスク診断、衛生管理アドバイス、HACCP対応支援などの有無。
年払い・月払いの選択可否。月払いは年間で5〜8%割高になる点に注意。
無事故割引制度の有無。3年無事故で10〜20%の割引を受けられる会社も。
大型イベント参加時の追加補償。日額1,000〜3,000円程度で加入可能。
キッチンカー事業に詳しい代理店を選択。申請書類作成のサポートも重要。
第6章:実際の事故事例と保険金支払い
📋 事例1:ノロウイルスによる集団食中毒(2024年7月・東京都)
- 事故概要:
- 夏祭りでのかき氷販売。シロップ容器の管理不備により28名が食中毒症状。
- 被害状況:
- 入院3名(各5日間)、通院25名、イベント中止による主催者への賠償
- 賠償内容:
-
・治療費:142万円
・休業損害:85万円
・慰謝料:168万円
・イベント中止損害:200万円
合計:595万円 - 保険金支払い:
- PL保険から満額支払い(免責5万円控除後590万円)
- 教訓:
- シロップ等の調味料も温度管理が必要。保険加入により廃業を免れた。
📋 事例2:アレルゲン誤表示によるアナフィラキシー(2024年10月・大阪府)
- 事故概要:
- クレープの「卵不使用」表示ミス。卵アレルギーの子供が重篤なアレルギー反応。
- 被害状況:
- 救急搬送、ICU入院7日間、その後の通院治療3ヶ月
- 賠償内容:
-
・治療費:385万円
・付添看護費:42万円
・慰謝料:450万円
・後遺症逸失利益:なし(完治)
合計:877万円 - 保険金支払い:
- PL保険から満額支払い。迅速な初期対応が評価され、訴訟に至らず。
- 教訓:
- アレルゲン管理は最重要。スタッフ教育と複数チェック体制が必須。
PL保険はBCP(事業継続計画)の要
適切な保険加入は、リスク管理の第一歩。
包括的なBCP策定で、どんな危機にも対応できる
強固なキッチンカー事業を構築しましょう。
よくある質問(FAQ)
法的な加入義務はありません。しかし、多くのイベント主催者や商業施設が出店条件として「PL保険加入証明書」の提出を求めています。実質的には加入必須と考えるべきです。また、金融機関から融資を受ける際も、PL保険加入が条件となることがあります。未加入での営業は、事業機会の大幅な損失につながります。
基本的には台数分の保険料が必要ですが、「フリート契約」により割引を受けられます。2台で10%、3台で15%、5台以上で20〜30%の割引が一般的です。ただし、1台で事故を起こすと全車両の保険料が上がるリスクもあります。また、売上高で保険料を算出する方式なら、台数に関わらず一括加入も可能です。保険会社により対応が異なるので、複数社で見積もりを取ることをお勧めします。
主な必要書類は、①保険金請求書、②事故状況報告書、③被害者の診断書・領収書、④示談書または和解書、⑤営業許可証のコピー、⑥事故現場の写真、⑦保健所への届出書類(食中毒の場合)です。迅速な保険金支払いのため、事故発生時は証拠保全が重要です。スマートフォンで現場写真を撮影し、関係者の連絡先を必ず記録してください。
自宅での仕込みは保険適用上リスクがあります。多くのPL保険は「営業許可を受けた施設」での調理が前提です。自宅仕込みが原因の事故は、保険金が支払われない可能性があります。対策として、①仕込み場所も含めた営業許可の取得、②保険会社への事前申告と承認、③「個人賠償責任保険」の追加加入を検討してください。保険料は若干上がりますが、リスクカバーの観点から重要です。
はい、「イベント賠償責任保険」として1日単位で加入可能です。保険料は1日あたり1,000〜5,000円程度で、補償額は1億円程度が一般的です。ただし、年間10回以上出店するなら年間契約の方が割安です。また、イベント主催者が包括的に保険加入している場合もあるので、事前確認をお勧めします。短期保険は申込みから適用まで3〜7日かかるため、早めの手続きが必要です。
執筆者:KOTONOYA代表
保有資格:消防設備士・AFP(日本FP協会認定)・情報セキュリティマネジメント・運行管理者
参考資料:
・厚生労働省 食中毒に関する情報
・日本損害保険協会
・消費者庁 食品安全